R3の自社売却検討報道:その背景と影響の考察
こんにちは、マスオです
先日、R3が自社売却を視野に入れているというニュースがブルームバーグにて報じられ、業界内で話題を呼んでいます。
それを受けて、以下の記事でも特集されました。
https://jp.cointelegraph.com/news/r3-strategic-options-blockchain-partnerships
https://www.ledgerinsights.com/enterprise-blockchain-firm-r3-seeks-investors-or-sale-report
今回のブログでは、R3の最近の動向を踏まえ、この発表の背景には何があるか、今後の展開をどのように捉えられるか、個人的な観点から考察してみたいと思います。
特に注目すべきは、AvalancheやSolanaといったパブリックブロックチェーンプロジェクトとの交渉が行われている点かもしれません。R3はこれまでXRPやXDCといったブロックチェーンとの連携を進めてきた経緯がありますが、今回の動きがこれまでの接続性の見直しを示唆するのか、それとも新たな戦略の一環なのか、考察していきたいと思います。
そもそもR3の事業とは?
まず、R3とはどのような企業なのか、あらためて確認する必要があります。同社が手掛ける主要な事業には、次の4つがあると考えられます。
- 「Cordaプラットフォーム」の開発と提供
- セキュリティが高く、プライバシー保護に長けたプライベートチェーン「Corda」を展開。金融機関をはじめ、サプライチェーン、保険、ヘルスケア、不動産など幅広い分野で利用される分散型台帳技術を提供。
- Cordaを使ったセキュリティトークン発行・流通(以下、トピック事例)
- Progmat:日本の金融機関が共同で設立したプラットフォーム。セキュリティトークンの発行や管理を行う。
- SIX digital Exchange:スイス拠点の初の規制対象デジタル証券取引所。決済にホールセールCBDCを使用するなどの事例をもつ。
- Euroclear:デジタル金融市場インフラストラクチャ (D-FMI)では、Cordaベースのトークン発行プラットフォームを運営する。
- CBDCプラットフォームの開発
- 各国の中央銀行と協力し、異なる通貨間の相互運用やデジタル通貨の管理・追跡をサポートするプラットフォームを提供しています。代表的なプロジェクトには、以下のものが挙げられます。
- プロジェクトAber:サウジアラビアとUAE中央銀行との間で、CBDCを活用した二国間決済の実現可能性を検証。
- mBridge:複数の中央銀行が参加し、リアルタイムのクロスボーダー決済の効率向上を図る実証実験。
- プロジェクトJura:フランスとスイス間でのクロスネットワーク決済の効率と透明性向上を目指した取り組み
- 各国の中央銀行と協力し、異なる通貨間の相互運用やデジタル通貨の管理・追跡をサポートするプラットフォームを提供しています。代表的なプロジェクトには、以下のものが挙げられます。
- トークン化された銀行預金の開発
- 英国の主要銀行とともに規制責任ネットワーク(RLN)の試験にも参加しており、R3はその技術提供パートナーとして選定されています。
- 金融機関コンソーシアムの運営
- 世界中の銀行、金融機関、保険会社、政府機関と連携し、ブロックチェーン技術の共同開発や標準化を推進
R3が手掛ける事業には、民間以外にも公的機関との事業が色濃いことが確認できます。特に、CBDC、英国大手銀行を巻き込んでの銀行預金トークン化、BIS(国際決済銀行)とのイノベーションハブを通した活動など、近年、政策面への関与が強くなっていった公共性の高い企業になりつつあると言えます。
R3 Corda上の決済通貨、これまでの経緯
つづいて、Cordaが扱う決済通貨について触れていきます。
これまで、Cordaは分散型台帳技術提供企業として、自社プラットフォーム内で利用できる決済通貨(仮想通貨)を模索してきました。プライベートチェーンというのは狭く閉ざされた環境であることから、決済機能は実装しづらい背景がありました。
ブロックチェーン上に決済機能を備える場合、それは流動性が確保されやすい「パブリックブロックチェーン」が合理的とされています。
しかも、R3のメインの顧客である金融機関は、パブリックブロックチェーン上の仮想通貨(トークン)を扱いづらい。セキュリティ基準、プライバシー設定、コンプライアンス遵守といった観点から、課題が多いことは以下の記事からも指摘されています。
流動性の問題に対処するためにはパブリックブロックチェーン上の資産との接続が有効ですが、コンプライアンスや規制要件を満たすことが難しい。かつてから金融機関や企業のブロックチェーン活用にはこのようなことが議論されてきました。
これまでにR3がパブリックブロックチェーン上の通貨との接続について行った取り組みには、主に以下の2つがありました。
- 2018年のCorda Settler発表
Corda Settlerは、Cordaネットワーク上での取引に関連する支払いを、従来の金融システムやブロックチェーンベースの決済手段で、XRPなどの暗号通貨を含むさまざまな決済手段をサポートするツールとして登場しました。 - 2021年のXDCネットワークとの連携
この提携により、Cordaのプライベートネットワークで実行された取引を、パブリックブロックチェーンであるXDCネットワーク上で決済できるようになりました。特に貿易金融や証券業務での利用が期待されています。
なお、1「Corda Settler」については、2024年現在に至るまで、XRPの使用実績はほとんど見られていません。(ただ、Corda Settler は世界中の金融機関が使用する SWIFT システムの拡張機能「SWIFT GPI」との接続、にて今なおXRPとの統合が噂されています。)
一方、2「XDC Network」については今年2024年5月に実証実験が完了したとの発表がありました。
この「XDC」とは何か。R3との接点を見ていくと2020年にさかのぼり、以下の記事でそれが確認ができます。
「DeFiエコシステム利用、R3のCordaで仮想通貨トークン「XDC」ローンチへ」https://coinpost.jp/?p=191867
初期は、R3が Corda で発行される仮想通貨として登場しましたが、早々に方向転換されます。
「XDC」という通貨は、パブリックブロックチェーン上で発行される、全く別の性質を持つものとして再出発を果たしました。これが、2021年3月の発表に繋がっています。
このように、XDCという通貨は R3 にルーツを持ち、その後も R3 Corda との接続性を持つように開発が進められてきたことから、両者の密接さは明らかです。
しかし、2021年の上記の記事にはこのようにも書かれています。
上の記述から、R3のビジョンはXDCを数ある暗号通貨と接続するためのファーストステップとして位置づけていることが確認できます。R3はこの先、複数の通貨を接続するビジョンを見ていたとのことです。
Cordaほどの規模を持つチェーンであれば、独自の決済通貨を導入しても不思議ではありませんが、CordaはJPモルガンのJPMコインのような独自通貨を持つ方向には進みませんでした。
R3は、Cordaというプライベートチェーン内で使用する専属通貨を備えるのではなく、さらに広く接続可能な通貨との接続を選んだと言えます。
ならば、今回の Ava Labs や Solana との接触は何の不思議もないなのかもしれません。
現在R3が目指すビジョンとは何か
冒頭、R3は公共性の高い企業、とお伝えしました。そして、自社のプライベート通貨を備える枠におさまらず、さらに広い接続を目指している様子が確認できました。
では、R3は掲げようとしているビジョンは何なのか。2024年1月に以下の発表が行われました。
「R3 Digital Markets」、これがR3が目指す未来像のようです。簡潔に説明すると「デジタル通貨⇒デジタル資産⇒相互運用」を実現するための未来像です。
R3ではデジタル資産(セキュリティトークンなど)を発行できますが、これらを決済するデジタル通貨を円滑に接続する必要があります。扱う通貨は「CBDC」「トークン化された銀行預金」、また、Cordaはあくまでその一端を担っているという位置づけになります。
また、以下3つ目にある「R3 Digital Connect」では、すべてのDLT(分散型台帳技術)を接続する、とあります。
こうなると、R3はやはり”公共インフラ”です。このようなビジョンを掲げる R3 が、Ava Labs や Solana のような、ある特定のDLT(分散型台帳技術)の傘下に入るというのは自己矛盾です。
もう1つ、R3は、Hyperledger Labの「Harmonia」プロジェクトを通じて相互運用性を進展させるプロジェクトを行っています。このHarmoniaの技術パートナーAdhara(アダラ)は、今回自社売却等の交渉相手の1つにあがった企業です。
このHarmoniaの目標は、「金融機関が採用する複数のDLTネットワーク間でのブロックチェーン技術の潜在力を引き出すこと」、「金融市場の効率と安全性を向上させる設計を進めること」、「業界標準に準拠したトランザクション実行を可能にすること」、だそうです。
R3は次世代金融の未来に携わっていることから、ますます自社売却の意図が理解しにくいです。
本来、XDCやAvalanche、SolanaはCordaのライバル
そして今回、R3はAva LabsとSolanaにもアクションを取りましたが、この流れをどう捉えるべきか。
Cordaはセキュリティとプライバシーを重視したプライベートチェーン。その強みを活かし、これまで金融を中心に、お堅い業界で数多くのユースケースを構築してきました。
しかし、近年、プライベートブロックチェーンの活用は風向きが厳しくなっています。以下は10月25日のLedgerinsightsの記事の抜粋ですが、貿易金融プラットフォームなどが苦境に立たされました。
一方で、現在 Ava Labs と Solana 、XDCがいるパブリックブロックチェーン業界も、企業の求める要件を満たしたブロックチェーンの構築に力を入れています。
例えば、Avalancheは企業からの信頼が厚いレイヤー1ブロックチェーンで、特に「サブネット」と呼ばれる独立したネットワーク機能は、DeFi、資産トークン化、サプライチェーン、ゲーム、に至るまで、多様な用途での利用が広がっています。
また、XDCも2024年10月1日に「XDC2.0」へのプロトコルアップグレードにより、同様の「XDCサブネット」をリリースしたばかりです。
これらサブネットは、いわばパブリックブロックチェーンと接続可能なプライベートチェーンでもあり、企業をターゲットに展開しています。その点で、Cordaと顧客層が重なるところが大いにあります。
また、企業が柔軟にカスタマイズ可能な点や導入コストの安さを売りにしており、現在サブネット構造の方に優位性があると見られています。
プライベートチェーンとパブリックチェーンが融合することで企業にさらなる利点をもたらせる、という潮流を踏まえると、Corda は劣勢かもしれません。
また今回、R3が Ava Labs や Solana に対し自社売却を持ちかけたかどうかは定かではありませんが、競合他社への売却というのは簡単な決断ではありません。それがすでに報道されているということは、株主をはじめ多くR3の利害関係者との話がついているのかもしれません。
SBIグループはどう捉えているか
中でも、R3 の外部筆頭株主である「SBIグループ」との調整が考えられそうです。すでに先に述べた XRP と XDC の2つの事例で SBI は R3 と密接に関わってきました。
もし、R3が企業財務上の課題から売却を余儀なくされている場合、SBIがR3と今後も戦略的な位置づけを維持したいならSBIが追加出資を検討するでしょうし、そうでなければSBIが保有する株式を部分売却する可能性があります。
しかし、現在SBIはそのような声明を発表していません。ブルームバーグの今回の報道を受けて筆頭株主SBIの発表が今後もないのであれば、それは”話がついた”のかもしれません。
SBIの最近の動向として、2023年12月に発表された合弁会社「SBI XDC」が、今年5月にCorda上でXDCを接続する実証実験に成功したとの発表を行っています。
そして、上記の図の中央に位置する「Impel」。この会社は主に、“Cordaとのブリッジ機能” と ”暗号資産 ISO20022 決済システム” を事業としてきた、R3からスピンオフした事業体です。このImpelが昨年あたりから活動していないことがひそかに話題になっていました。しかし、以下の発表により、現状が確認されました。
【翻訳】
Impel エンティティは解散し、存在しなくなりました。当社のソリューションは、次のように他の XDC Network 組織に再割り当てされました:
- R3 Corda XDC ネットワーク ブリッジは SBI XDC (両社の合弁会社)に
- ISO 20022 API は XinFin(XDCの開発元)に
つまり、Impelを XDC Network 側に移譲し、R3とSBI、XDCという三者が、これにて利害調整が行われた、と見ることができます。
これについて、XDC共同創業者・Atul氏は、次のようなコメントを残しました。
【翻訳】XDCの決済ユースケースは R3 だけにとどまらず、SWIFT を含む複数のプラットフォームで動作するように設計されています。発表される「XDC For Payments」については、Web サイトとソーシャル ハンドルに注目してください。
XDCが、すでにR3に限らない決済網を構築していることが示唆されました。
また、SBIやXDCとも交流のある有名インフルエンサーはこの件について、「SBI XDC APAC は R3 と取引がありません。Corda はオープンソースです。」と述べました。Atul氏もこれをリポストしています。
この「オープンソース」というのが鍵を握りそうです。
現に、Cordaの一部はオープンソース版として公開されており、エンタープライズ向け機能を追加した「Corda Enterprise」との二本立てで提供されているとのこと。
オープンソースということは、仮にR3社が解体されたとしても、Cordaの既存企業ユーザーや開発者コミュニティが技術支援や新機能の開発を引き継ぐことで、オープンソースのエコシステムが自律的に発展する可能性があります。Hyperledgerと似た展開になるということです。
以上のことから、R3 Corda をルーツに持つ XDC については、2024年現在 R3 との関係に依存していない、と同時に、R3 も XDC に依存していない。今の関係をそのようにとらえてよさそうです。
R3の終着点は?
冒頭から R3 は「公共性の高い事業」だと説明してきました。私企業でありながら、BIS(国際決済銀行)や中央銀行と様々な主要プロジェクトに参加し、CBDCを含めたデジタル通貨の「相互運用性」を追求しています。
その存在は、すでに政治的中立性を損ねつつあり、新規参入やイノベーションを阻害する可能性すらあります。よって、デジタル通貨普及のための戦略的観点から、R3は技術提供企業として縮小化、あるいは解体、という展開はあるのかもしれません。
その場合のシナリオとして、以下の可能性が考えられそうです。
パターン1:オープンソース Corda を活用して、Ava Labs や Solana などと合弁事業を強化。エンタープライズ領域への進出を後押しし、R3は経営基盤を強化。R3は存続。
パターン2:R3の開発者や事業開発チームを Ava Labs/Solanaなどが買収、人材の受け入れ先確保して、技術だけはR3に残る。
パターン3:相互運用技術企業Adharaや、今回言及されていない他の技術・プラットフォームと統合され、R3が解散する。
あくまで筆者の想像にすぎませんが、いずれも R3 は自社の本懐である「相互運用性」を達成する手段と見られます。
R3の持つビジョンは深淵
R3 は「相互運用性」を高めて、これから一体何をしたいのか。トークン化促進による金融のデジタルトランスフォーメーション(DX)の推進、はいわずもがなですが、社会構造を抜本的に変える最前線としての役割があるかもしれません。
以下、R3 デジタル通貨責任者・リカルド氏のインタビュー記事の抜粋です。
相互運用可能なデジタル通貨が主流になる時代には、中央銀行は自律分散型組織(DAO)化され、商業銀行も自律分散型組織(DAO)化される。銀行はすべてアプリケーション化される社会になる。
R3 は、それに先駆けて自らを「まずは縮小化」「いずれ解散」していくかもしれません。
まとめ
今回は、さまざまな驚きを呼んだR3社の売却模索の報道について考察してみました。
これまでの経緯を確認し、R3がさまざまなデジタル通貨を相互接続するための役割を担い、もはや公共財となりつつある現状を確認しました。それを踏まえると、R3の身の振り方は驚くものではなく、ましてや固有のプロジェクトに固執する立場ではなさそうです。
重要なのは、R3の DNA(技術とユースケース)がどこに受け継がれていくのか。「Corda」「CBDC」「トークン化預金」「ISO20022」、本流がどこにあるかを見ていく必要がありそうです。
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